大判例

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青森地方裁判所 昭和47年(わ)208号 判決

一 被告人

(一)本店の所在地

青森市橋本一丁目九番六号

法人の名称

株式会社 小笠原兄弟商会

代表者の住居

青森市大字原別字難波二二番地の八

代表者の氏名

小笠原又蔵

(二)本籍

青森市大字大工町一三番地

住居

青森市大字原別字難波二二番地の八

会社役員(株式会社小笠原兄弟商会代表取締役)

小笠原又蔵

大正六年四月二〇日生

一 事件名

法人税法違反

一 出席検察官

板橋育男

主文

被告株式会社小笠原兄弟商会を罰金一二〇万円に、被告人小笠原又蔵を懲役三月に、それぞれ処する。

被告人小笠原又蔵に対しこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は二分の一宛を被告会社と被告人小笠原又蔵の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は青森市橋本一丁目九番六号に本店を置き、古鋼鉄機械工具屑物類の買受販売等を営む資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人小笠原又蔵は右会社の代表取締役として会社業務の全般を統括しているものであるが、被告人小笠原は、被告会社の業務に関し、法人税を免がれる目的で、架空仕入を計上する等の方法によつて得た裏資金を架空名義および無記名の預金に預け入れる等の不正の手段により

第一  昭和四四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額は一四、三三六、七九八円で、これに対する法人税額は四、六七五、五〇〇円であるにもかかわらず、昭和四五年二月二八日、青森市本町一丁目六番五号所在の所轄青森税務署において、同税務署長に対し、当該事業年度の所得金額は六、三一〇、五六二円で、これに対する法人税額は一、八六八、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて同会社の当該事業年度の正規の法人税額四、六七五、五〇〇円との差額二、八〇六、七〇〇円を

第二  昭和四五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額は一七、一二七、一六六円で、これに対する法人税額は五、九二九、〇〇〇円であるにもかかわらず、昭和四六年三日一日、前記青森税務署において、同税務署長に対し、当該事業年度の所得金額は七、三三三、八一一円で、これに対する法人税額は二、三三三、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて同会社の当該事業年度の正規の法人税額五、九二九、〇〇〇円との差額三、五九五、九〇〇円を

それぞれほ脱したものである。

(証拠の標目)

一  被告人の第三一、三二回当公判廷における供述

一  第一八、一九回公判調書中の被告人の供述部分、被告人の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書(二八通)、被告人作成の大蔵事務官に対する上申書(一八通)

一  証人小田嶋昭雄の第二五回乃至第三〇回当公判廷における供述

一  第六、七回公判調書中の証人小笠原三郎の、第八回、九回公判調書中の証人工藤きわの、第一〇、一四回公判調書中の証人小田嶋昭雄の、第一六、一七回公判調書中の小笠原サチヨの、各供述部分

一  小笠原三郎及び小笠原サチヨの検察官に対する各供述調書

一  小島秀雄、小笠原幸代(二通)、小笠原三郎(八通)、山口正俊(二通)、亀井順一、長谷川友吉、工藤きわ及び丸尾卓男の各上申書

一  工藤きわ、小笠原盛造、長谷川友吉、山下忠広、榊彦次郎、藤田光雄、吉町シメ及び小島秀雄の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  脱税額計算書(二通)

一  法人税確定申告書(昭和四四、四五年度分二通)

一  検査てん末書(八通)、臨検てん末書(九通)、簿外預金等調査書(二通)、個人預金等の調査書(二通)、社長勘定調査書、専務勘定調査書、未納事業税額計算書、査察官報告書

一  青森放送株式会社、株式会社青森銀行及び有限会社青森船用商会の各回答書、盛岡地方貯金局からの検察官宛電話聴取書、第一生命青森支社の満期保険金支払証明書

一  押収してある各書面帳簿類(昭和四八年押第三七号の一乃至二一同号の二二の一乃至四同号の二三の一乃至五同号の二四乃至二七)

(争点)

(1)  仮受金、預金項目について

本件法人の場合、被告会社の裏資金と被告人又蔵らの個人資金が混在して運用されていたところから、本件査察においては、各種銀行関係等を調査したうえ、被告人又蔵らの、原則的には無記名若しくは架空名義の預金は会社の裏資金で、実名名義のそれは同被告人らの個人預金である旨の意見、それらの証書、印鑑類の保管状態並びに被告人又蔵及び専務小笠原三郎の各個人収入・支出関係の調査等から両者の帰属を認定し(他人名義の預金であつても、その発生に遡つて調査して、これが個人資金によるものと認められるときは、個人分に認めている)、この査定結果について被告人又蔵の承認を得たものであり、これによると、昭和四四年一二月末日においては、被告人又蔵の個人預金関係を、合計五、三六九、四一五円であると認めたほか、同被告人個人資産が会社の裏資金に合計七、一〇〇、〇〇〇円流入しているとして、これを被告会社の同被告人に対する「仮受金」に計上している。以上の査定には特段不合理な点は存しない。

これに対し、弁護人は、被告人又蔵は昭和二九年被告会社設立当時の個人資産として架空名義の普通預金・無記名定期預金合計三、四〇〇、〇〇〇円(これは、査察においてもその発生源を検討したうえ、同被告人個人分と認めている)のほか、(イ)手持現金四、〇〇〇、〇〇〇円、(ロ)個人のたな卸資産(鉄屑類)合計二、〇〇〇、〇〇〇円、(ハ)被告会社に対する債権四九六、九三四円、以上合計九、八九六、九三四円を有したとし、これを基礎として、生計費等の推計計算により、昭和四二年末には一八、〇〇〇、〇〇〇円を超える生活余財が蓄積されている筈であり、この分は被告会社の資産(預金)に含まれているとみるべきであるから、右「仮受金」は少くとも一五、〇〇〇、〇〇〇円と計上すべきである旨、反駁する。

しかしながら、まず、(A)、その推計方法には、次の疑念が存する。すなわち、前説示のとおり、被告人又蔵の預金中には、純然たる個人預金と、被告会社の仮受金に計上されている個人預金との二口が認容されているところ、その主張する生活余財は、前者の個人預金に含まれることはなく、専ら被告会社の預金(仮受金)中にのみ含まれているとの資料はなんら存在しないのであるから、右生活余財の計算については、純然たる個人預金の変動との関連を全く度外視するものであつて、合理性に欠けるものである。なお、被告人又蔵は被告会社設立後昭和四二年までの年間の生活余財は二〇〇、〇〇〇円乃至二五〇、〇〇〇円にすぎない旨自認している(昭和四六年一〇月二八日付質問てん末書)のに、右推計による金額はこれと著しく相違している。次に、(B)、前記(イ)の現金については、被告人又蔵の当時の年間収入四八万円の八倍もの金員を手持ちしていたとするのは、いささか不自然であるのみならず、これを何時どのような預金にしたかは全く不明であるのに、右手持現金の状態にあつたという昭和二九年当時から利息増加の計算をしているのは不当である。前記(ロ)については、被告会社を設立しながら、敢えて個人経営当時の在庫の一部を個人商品として留保していたわけであるが、そうすることにつき、特段の納得すべき事情も窺われない以上、極めて不合理であるというほかはない。なお、未だ在庫品の状態にすぎないのに、換価されたことを前提にして、これに利息増加を計上しているのも疑問である。(ハ)についても、被告会社に対する債権にすぎないのに、これについて利息計算をなし、預金増加の源泉としている不合理が存するのである。要するに、弁護人の右主張はとうてい採用できない。

(2)  簿外たな卸高について

本件査察においては、被告人の主張するとおりの算定方法、すなわち、昭和四五年末における在庫高を基礎として、同年度の架空仕入量、出目数量から同年度の期首・期末在庫高を算出し、同様にして昭和四四年度を算出することとし、被告人又蔵において、取引先の調査・各種帳簿の検討をなして右架空仕入量等を上申することによつて、右たな卸高を確定したものであつて、その算出の根拠、認定は合理的であると判断できる。

しかるところ、弁護人は昭和四三年以前に蓄積されていた在庫品を昭和四四、四五年にも持ち越していたから、犯則年度の在庫品は、本件認定高以上であつた旨反駁するのであるが、これを肯定せしむべき資料はなく、むしろ、弁護人主張の各年度の期首・期末の在庫高を基礎(各年度の売上高については争いがない)としての、いわゆる「たな卸回転率」の計算からすれば、その主張の期間在庫品が持ち越されていたとはとうてい認め難いところというべきであつて、右主張は採用できない。

(3)  売上除外、仲立料、架空仕入及び仕入手数料について

右各項目は、いずれも被告人又蔵らにおいて取引先・各種帳簿類を調査して自ら作成した資料を提出し(なお、税理士による検討を経ている)、かつ査察官においても右資料の検討及び取引先などを調査の結果、最終的に同被告人の同意のもとに認定されたものであつて、特段疑念は存しない。

しかるところ、弁護人は右各認定と異なつた額を主張するのであるが、その資料としては、本件査定当時には被告人又蔵において記憶違いをしていたことを理由とする、被告会社作成の上申書(第二四、三一回各当公判廷に提出にかかるもの)及び被告人又蔵の当公判廷供述(第三一回)が存するにすぎず、右上申書、供述とも右査定の経過に徴してたやすく措信できないし、他に右主張を裏付けるにたりる客観的証拠はなんら見当らないから、右主張もまた採用の限りではない。

(4)  犯則年度における個人現金の持込みについて

被告人又蔵の個人預金関係の認定は、前説示のとおり合理的であると判断できるところ、弁護人は、小笠原サチヨにおいて昭和二六年から昭和二八年の間に合計一、五〇〇、〇〇〇円を円山正司に預託し、昭和四四、四五年に返還を受けているのに、本件犯則年度にはこの事実が考慮されていない旨反駁し、証人小笠原サチヨ及び同円山正司において右に沿う供述をなす(第三〇、三三回各当公判廷)のであるが、右各供述によれば、右主張の現金預託と返還の事実が認められないわけではないけれども、返還の時期の点はにわかに措信できないばかりでなく、その現金が被告人又蔵個人分の預金とは全く別途に会社の裏資金に混在していることを窺わせるにたりる資料はなんら存しないから、右各供述は犯則年度における預金関係の認定を覆すわけにはいかず、したがつて、右反駁もまた失当である。

(法令の適用)

一  被告会社

判示各事実 法人税法一五九条一項、一六四条一項

併合罪の処理 刑法四五条前段、四八条二項

訴訟費用の負担 刑事訴訟法一八一条一項本文

一  被告人小笠原又蔵

判示各事実 法人税法一五九条一項(懲役刑選択)

併合罪の処理 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重)

刑の執行猶予 刑法二五条一項一号

訴訟費用の負担 刑事訴訟法一八一条一項本文

よつて主文のとおり判決する。

昭和五三年一二月一一日

(裁判官 山之内一夫)

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